Column

 13.地中海都市の今日的意味

 12.OSB合板の種類

 11.輸入合板各種

 10.木は弱くない

 9.木の外壁

 8.今日本の開発援助に足りないもの

 7.イエローページで見るカトマンズの職業

 6.カトマンズの多層住宅

 5.コスト操作術

 4.繋留された陸の船

 3.縁側スペースを見直す

 2.建築士なのですか?建築家なのですか?

 1.馬鹿か?煙か?建築家??



13.地中海都市の今日的意味

「地中海都市周遊」中公新書 陣内秀信/福井憲彦著 建築知識での書評 

20年近くも前の話になるが、私が設計事務所をやめ、渡伊を考えていたときに、陣内さんに貴重な時間を頂き相談にのっていただいたことがある.新宿で昼御飯を食べながらほんの一時間ほどではあったが、その時に南イタリア、長靴の先っぽにあるチスティルニーノという小さな街が美しくて面白いという事を伺ったことを昨日のように思い出す.まだ、ヨーロッパにも行ったことのなかった私は、当然フィレンツェやベネツィア、ローマなどの話が本当は聞きたかったのであるが、いきなりガイドブックにもなく聞いたこともないこの小さな街の名前がでてきたので正直言って困惑した.というわけで、.無視した訳ではなかったが、イタリアへ行ってからまずは当然のように有名な都市を訪れてみた.眩いほどの有名な建物、彫刻.しかし、しばらく見ているうちに、私の興味はしだいと小さな街の生き生きとした生活や空間、そしてそこに暮らす人々の中に潜む「街を生き生きとさせている何か」に変わっていった.そのような街々を見歩いていくと直感的に活気のあふれた楽しそうな生活空間から「街を生き生きとさせている何か」を感じ取ることが出来る.しかしそれを分析して人に説明するのはなかなか難しいことであるし、ましてや設計の中にそのおもしろさを再現しようと思うなら、そのおもしろさの本質と背景に隠れている歴史、風土、宗教などを総合的に理解していなくてはならない.ただ雰囲気をまねただけではテーマパーク風、または建て売りの・・風になってしまう.本書はその「街を生き生きとさせている何か」について、読み安い言葉でありながら上手く説明しているように思う.しかも建築という分野からだけでなくさまざまな方面、文化的、宗教的な背景をしっかりと見据えた上での話であるから、深みがあり読み物としても面白い、ということが建築の専門出版社でなく中公新書から、しかもカラーページ付きで出版されているわけであろう.さて、この本「地中海都市周遊」であるが、この題名が興味をそそる.南イタリアの・・・、とかイスラム都市の・・・、という分け方で語られることの多いなか、イタリア、スペインなどのヨーロッパ側だけでなく、対岸の北アフリカ、モロッコの都市とシリアのダマスクスにまで話は広がりを見せている.地中海というと、ついヨーロッパ側だけに意識がいってしまうが、地中海を中心に繰り広げられた古代ローマからイスラム帝国、そしてイスラム教とキリスト教など複雑な歴史を顧みれば、地中海の沿岸都市は現代では考えられないほど密接に関係のあった地域なのである.むしろ地中海に面する国々を考えるとき、図と地を反転させ海を中心に考えたほうがわかりやすい.今はアフリカ大陸、南ヨーロッパ、中東という枠組みの中に入ってしまっているが、この地の文化は地中海を舞台に展開していった.本書ではイスラムの都市と南イタリアの都市を見比べることによっていっそうその違いと共通点が明らかにされている.これら、地中海都市の今日的な意味都市というものをどのように定義するのか、またどのようなものを理想とするのかによって様々な意見に分かれるかもしれない.どちらにしろ現在の東京のオフィス街や歓楽街は本来の意味においての、言い換えると人が住み生活を楽しみ集まって暮らしていくところ、ではなさそうである.アメリカ型の機能的な価値観や、近代都市の特質では本書にでてくる都市は語れない.ヒューマンスケールを保ち人間的な価値観で創られる小さな都市での生活は、非能率的でもあり不便さを伴う.ベネツィア本島の町中は当然車は走らないし、階段も沢山ある.魅力的な地中海都市ではあるがつねに順風満帆ではなかった.たくさんの紆余曲折を通り抜け現在の姿がある.70年代は車が街の中心の広場に溢れ、人間が街の中心から締め出されそうになったこともあったという.しかしそこで車に街をあわせるのではなく、不便を受け入れ生活の豊かさを求めたところがわれわれ日本の街との大きな違いであった.結果、日本には個性のない、一見(車には)合理的な街で溢れかえることになる.今私たちが求める本当の魅力的な都市とは何か、よく叫ばれている「豊かな生活」とは何か?近代化に乗り遅れたこれら地中海の小都市は、悪く言うと一周遅れのトップランナーとも言える.しかし21世紀の街のあり方を問うた時、日本の都市が歴史が刻まれた織物のような都市とは言えないような状況になっている中、本書に描かれているような魅力的な街の本質を知ることはこれからの都市造りの手本やヒントになることであろう.



12.OSB合板の種類

お勧め材 各種グッドワンサイド 建築知識原稿

OSB合板は木材のチップから作られエコウッドと呼ばれる.一般の材木の歩留まりが60%程度であるのに対し、チップ状にしてつかうため歩留まりは80%程度と高く、資源を有効に使うという意味合いからこのように呼ばれている.OSBは細長い木片を一定方向に並べ耐水性の接着剤で固めたパネルを縦横に合板のように積層して作られる.この木片はアスペン、ポプラ等が使われその比率などはメーカーによって異なるが、表情、色の違いはほとんど変わらない.構造用合板として作られたものと、それをインテリア用にサンダー掛けした製品があり構造用の製品は製作過程で表面に吹き付けられる茶色のパウダー状の接着剤が所々に表れており、お世辞にも綺麗な製品とは言えない.インテリア用に作られたものはOSBインテリア(8mm)、OSBノースタンプ(9.5mm)と二つのグレードがありOSBインテリアは両面にサンダーがかけられ、OSBノースタンプは構造用のOSBと同じ製品で、スタンプの押されていないものである.値段は為替のレートにもよるがインテリアで平米1500円程度、ノースタンプで800円程度である.また構造用のOSBは小口からの吸水を防ぐために黄色や赤の派手な塗料が小口に塗られているため、そのまま表しで使用すると四周に少し派手なペイント部分が見えてしまうのだが、インテリア用としての製品にはそれがない.何度かOSB合板を設計で指定したのだが毎回表情の違う製品が現場に納入され、このように同じOSB合板でも何種類もの、そして用途に応じて耐力、意匠の違うものがでていたのを知ると、当時の不勉強を痛感させられる.北米から輸入される他の合板と同じくホルムアルデヒドの放出量は日本のFc0の基準に比べても約1/25にとどまっており、安心して内装材として使うことのできる性能を持つ.OSBインテリア、OSBノースタンプともそのままクリアラッカーなどで仕上げることもできるが、薄くステインをかけたりすることでかなり製品のイメージが変わる.表面を研磨されているOSBインテリアは表面が綺麗に仕上がっているだけではなく多少のデコボコを持って貼り付けられていたチップが平滑に研磨されることによってよりはっきりと小さな模様になって表れ、一枚一枚違った表情を楽しめる.意匠材としてこだわりたい方は木場などの問屋に行って直接確かめることをお勧めする.高広木材(03-3521-6121 新木場駅前)納め方壁と天井が異なる素材の時、例えば壁にOSBを使い、天井をプラスターボードEP仕上としたときなど、その接合部分つまり入り隅となる部分のディテールには工夫が必要となる.プラスターボードのように表面がツルツルの面と、表面がわずかではあるがデコボコのある面であるため、そのまま突きつけで仕上げるとペンキを塗ったときに入り隅部分でまっすぐなラインが出にくいからである.このようなとき隅の部分で塗り分けるのではなく多少OSBにかかった部分で塗り分け、まっすぐに見せるのが簡単でよい.本来は天然材料であるので湿気によって伸び縮みする事を考慮し、天井または壁に目地を用いるのが綺麗に仕上がるだろうが、当然前者よりも手間のかかる仕上げとなりローコストを優先させる場合には私の場合突きつけにした上記の方法で逃げている.



11.輸入合板各種

建築知識原稿

近頃2’×4'をはじめ最近の現場で使用される合板は南洋材を使ったラワン合板から針葉樹合板にシフトしてきているようだ.この合板のことを少しまとめてみると、針葉樹合板といわれるものはカナダやアメリカ西海岸から輸入されてきているものと国内産がある.アメリカからのものにはAPA、カナダからのものにはCOFIおよびCANPLYとスタンプが押されているが日本のJAS規格に当たる各国の品質保証を示し、日本に輸入されるものはJASのスタンプが押されているものもある.これら構造用合板はFc0と呼ばれる規格をクリアしホルムアルデヒドの放出量が非常に少なく、ハウスメーカー、建築家をはじめ室内環境を良好に保ちたい多くの人に選択されている.北米からの合板は日本のFc0の基準0.5mg/lのさらに一桁少ない基準となっており安心して使用できる製品といえよう.この構造用合板、何も指定しないと裏表を問わず判子がベタベタと押された製品が現場に搬入されることが多いが、片面または両面とも表し仕上げ用の製品があり、北米ではグッドワンサイド、グッドツーサイドと呼ばれる.残念ながらグッドツーサイドは現在のところ日本では流通していないようだ.表面材の種類はサザンパイン、レッドシダー、ラーチなどで国産品はラーチが多い.サザンパイン、ラーチは共に白から薄い黄色が基調となった色合いだ.この二種類は価格が9mm厚で平米1200〜2000円程度である.レッドシダーはその名の通り赤っぽい.またレッドシダー製品は防腐防虫効果があり、小口からの吸水を上手く押さえることが出来れば外部での仕様も問題ないし、2'×10'という長物もあるので使いやすい.ラフソーン(鋸目表面仕上)とブラッシ(縦溝表面仕上)仕上がある.値段は9mm厚で平米4000円程度.国内産は各問屋で、北米産の製品は新木場にある高広木材(03-3521-6121)で入手できる.また高広木材では各種合板の見本、塗装をかけたときの見本などもそろっているので、実際に目で確かめるのも良いだろう.



10.木は弱くない

レッドシダー、カナダ杉の実力 建築知識原稿

木材は専門の知識なしでむやみに使ってしまうと経年変化による腐れ、寸法の狂い、暴れなどあるためクレームを受けやすい材料の一つといえると思う.上手く使用するには職人の経験と長年培われた納まりの知識が必要でさらに”コツ”と呼ばれる謎の部分も多い.ビルはもちろんのこと小規模住宅においても木材が使用されていた部分は次第に工業製品やプラスティック製品に置き換えられ、一見きれいに見えるが味のない材料が住まいの中に充満している(しかも有害物質まで放出していた)のが現在日本の住宅事情といえるのではないだろうか.あくまで木材は自然材料のため一本として同じ性質、見かけのものはなく、そのことが均質無変化、無変質を最上のものと考える(すなわち顧客からのクレームを嫌う)ハウスメーカーなどにとっては使いにくい仕上材と考えられ、住宅の内装材からだんだん姿を消していった.更に木材というと檜、秋田杉など高級品としてのイメージが定着しており、木材=高価と考えてしまうのも敬遠される要因と考えられる.海に近い敷地でローコスト住宅の計画をしていたとき外壁にレッドシダーを使うことにした(長者ヶ崎の住宅).潮風にさらされて30年の年月を耐えてきたムーアのシーランチの外壁がレッドシダーだったことも大いに影響している.潮風に強く施工性が良くさらに安価である材料、という条件に合ったからである.また検討の結果外壁だけでなく防腐性、耐水性の求められる水周りでも十分に使用可能とわかりバスルームの内装にもつかうこととなった.この住宅は予算がきびしかったためタイル工事はいっさい省いており、乾式の工法で水周りを仕上げなければならなかったのも一つの理由であるが、木造や鉄骨の軸組は本来揺れ動くもので、タイルなど左官で仕上げた壁にはクラックの入る恐れがあるためでもある.木造とタイル壁は相性が悪いと考えている.縦張りでカナダ杉、本実加工品を使用したが小口からの水の吸い上げは考えられるので、バスタブ周辺の20cmほどのところにはセラミック板(フレキの表面をセラミック加工したもの)を張りシールを施し、その上部から張り上げている.新木場にある高広木材という輸入木材を扱っている材木問屋から教わったレッドシダー、日本では米杉とかカナダ杉とか呼ばれている木材を紹介してみたい.はじめて紹介してもらったときに高広木材の渡辺社長、渡辺専務が熱っぽく語られた話は木材に対する私のそれまでの考えをすっかり変えてしまった.柔らかく軽い材料であるが腐食しにくく値段も安い.日本の林業が壊滅的な産業となってしまった現在であるが、北米大陸の太平洋側、カナダ、アメリカでは農作物のような感覚でこれらの樹木を大量に計画的に生産している.全森林の年間生長量を予測の上、伐採する樹木量を決定し何十年というサイクルの中で植林から切り出しまで合理的に生産管理されているのだ.そのため供給量、市場価格共安定し日本に輸入されて来ているものも為替の変動による価格の変化はあるものの比較的安値で安定した商品となっている.北米大陸の木造住宅に多く使われるこれらの木材の多くは南京下見板、縁甲板などに加工されたうえ輸入される.ただしこの場合使う側も価値観の変更が必要となる.これら製品として出荷されている木材は様々な種類のものが混ざっており、赤みがかったものと白い木肌のもの、柾目と板目などが同じ梱包に入っておりそれらを選り好みしていくと結局は高価な材料となってしまうからだ.安価に木材を使用するには(といって薄っぺらな突板合板でなく)消費者を含め設計者も材のばらつきや違いに新しい価値基準を持たなくてはならない.本来製品の色、木目にばらつきのある自然材料の中から目や色のあったものを選りすぐる手間と無駄な材料費が単価を押し上げてしまうからだ.写真にあるように木地を表したクリアな仕上にするとその違いは顕著に現れる.これを新しい表現と考え、安く木材を内装材として使用することができるか?難しいのは設計者の意識改革はもちろん、クライアント(特に少々木に対して知識があり古い価値観を持っている人)にも理解してもらわなくてはならないことなのであるが.もっとも、気になる人は色の濃いステインを塗れば色違いは押さえることはできる.レッドシダー(ベイスギ、カナダスギ)はレッドウッドと名前が似ているがレッドシダーが檜科であるのに対しレッドウッドは杉科である.明治時代、すでに北米から輸入されているが当時でも高価であった秋田杉の代替材として使われ、杉に似ているためベイスギと呼ばれるようになったようである.ベイスギの性質であるがスギといっても檜の性質も併せ持ち、見た目や重さ比重など物理的な性質は杉に近いが、匂い耐候性は檜である.それはレッドシダーに含まれるヒノキチオール(ツヤプリシン)のためである.ヒノキチオールにより檜は防虫性、耐候性に優れている.レッドシダーはそのヒノキチオールを檜より多く含むため外壁、屋根に使われたり安価なデッキ材として屋外でも多く使われ、内装材として居間や寝室の壁面に使うだけでなく浴室など水周りの壁にも使える.柔らかく、比重の小さい材料であるため圧縮強度、釘の保持力が少なく表面に傷の付きやすい性質は日本の杉に似ている.

流通商品:南京下見板、ドイツ下見板、縁甲板、デッキ材など加工品の他、90×90mm、2×4,2×6,2×8など製品

:ウェアーハウザー  (旧マクミラン)社製カナダ杉取り扱い:高広木材(03-3521-6121)



9.木の外壁

建築知識原稿

残念ながら都心や市街地では、火災の延焼予防から外壁材に制限があり、多くの住宅は金属板やセメント系の既製品かモルタルを塗り込んだ外壁に落ち着いてしまう.写真の住宅は、海岸線から70mしか離れていない立地であったため、そのような制限からは逃れていた.土地は広いものの十分な予算のない中でどのような外壁材が最適なものかを画策していたときに、雑誌でふと目に止まったのが、カリフォルニアでムーアの設計したシーランチの現在の写真であった.私の学生時代のあこがれの作品である.その写真は築30年を越えているにも関わらず風雨に耐え、新築当時にも増して迫力のあるたたずまいを見せていた.外壁材はレッドシダー.日本では米杉とかカナダ杉と呼ばれているこの材料は北米地域で多く使われている材料で、屋根葺き材として使われることもある.住宅建材として加工された製品が日本にもかなり安い価格で輸入されている.検討の結果、価格、耐久性、木造の骨組みとの相性がとても良いことがわかり、使うことに決定した.日本では○○杉と呼ばれ、見た目も杉ににているレッドシダーだが、実は檜科の木材で、木の匂いは桧に近い.この匂いは、一般にヒノキチオールと呼ばれる防虫防腐効果に有効な成分のためで、桧よりも多く含んでいる.外壁材やデッキ材として外部で使うのには最適の材料である.輸入されている製品はいろいろなグレードがあり、安いものは色味も木目もバラバラに梱包されてくる.赤いもの、白っぽいものとバラエティーに富んでいる.写真で黒っぽく塗っているところは色の違いを目立たなくさせる意味もあり、濃い茶色に塗っている.塗料はペンキのように表面に皮膜を作るものではなく、外壁用ステインというインクのようなものをしみこませて使うのが良い.木の表面が呼吸をし、しかもしみこんだ部分まで保護されるからだ.その後、大阪のクリニック計画でも外壁に使用した.この計画ではコンクリートの外壁の上から仕上材として木造外壁を張っている.外断熱工法と組み合わせれば意匠的な効果はもちろん、性能的にもより優れた解決となる.2階部分は木造であるが一階のコンクリート部分に木を張っているため違和感なく外観をまとめることが出来た.このような木の外壁は、なんと言っても町並みに対して柔らかい表情を見せてくれるのが良い.なかなか使うチャンスはないものの積極的に使っていきたい材料と思っている.



8.今日本の開発援助に足りないもの

ネパール・カトマンドウの都市ガイド コラム原稿より

ネパールは結構地震も多く、レンガを積み上げた構造であること、レンガとレンガを固定しているモルタルの強度が低いことなどから壁の傾いている家、屋根の傾いている家など街中にごろごろしています。多くの歴史的建造物も同様で、今回見てまわった有名な王宮建築ですら修復の必要なものがたくさんありす。このような街並や建物を守ろうと各国の援助も盛んで、有名なものではバドガオンの王宮前広場とそこに建ついくつかの塔やチョク。ドイツが徹底的に修復して見せた街並は今やネパール一の観光名所でもあり映画のロケにも使われるほどの美しいものです。日本も日本工業大学の藤岡研が文部省の補助金と大学の特別研究費を使って調査団を送り、その後大学の努力でパタンに在る仏教僧院、イ・バハ・バヒの修復を行っています。その同じパタンでもマニ・ケシャル・ナラヤン・チョクがオーストリアの手で博物館・美術館としてきれいに再生されていて内部も見れます。ただ、一階の裏庭に面している柱を鉄骨に取り替え補強するなど木造建築の良さを、押しつけの西洋現代技術でやっつけてしまっているあたり、日本のほうが巧くやるのにな、などと思ってしまいます。中庭を通り抜け裏庭に出るとレストランがあり天気が良ければオープンエアーの食事が楽しめます。しかも美術館の中なのでネパールの喧騒とパワーに疲れた方にはおすすめ。話は道を外れてしまいましたが、皆さんもご存じのように日本は世界一の規模で開発途上国に援助金を出しています。97年度ODA一般会計予算は1兆1687億円にのぼり、国民一人あたり9350円にもなります.しかし、新聞や週刊誌などでもよく批判されているように、この膨大なお金はあまり効果的に使われていないようです.ネパールの東隣と言っても良いブータンでのODA不正支出事件があったことを覚えていらっしゃる方も多いと思います。ネパールではどうだか分かりませんが「いまの日本の開発援助に足りないもの」などとたいそうな見出しになったのは、ここパタンの美術館、マニ・ケシャル・ナラヤン・チョクのすぐ隣で遭遇したあることからいろいろと考えさせられたからです。ガイドによるとここのスンダリチョク、一般には公開していないが建築の取材に来たのなら見れるのではないか、とのことで許可を得にいったのですが断られてしまいました。理由は何と日本からの援助。日本からの援助がないからではなく、たくさんの援助はあるが結果がでておらず、お金は途中どこかで消えてしまっているらしい。どこでどうなっているのかは分かりませんがとにかく結果がでていないので日本人には見せられないと言う。そんなばかな。お金を出しているのは日本であることに違いないではないか。それとも聞き違い?なんど聞いても答えは同じ。納得のいかぬまま帰ったのですが、後日カトマンズの王宮を案内してもらっているときにも同じ理由で断られるにいたり日本の政府開発援助には誠意や好意がないのが一番の問題だと思うようになりました。考えてみれば誕生日に愛する人から(たとえ信じられないような金額でも)小切手をもらっても嬉しい人はいないはずです。無駄な金より愛情と思いやりのある一本のバラの花のほうが心に響くものです。日本も早く誠意のある手を差しのべ、真の意味で尊敬されるアジアでのリーダー国になっていきたいものです。

*参考ブータンでのODA不正支出事件 91〜98年度まで60億円中約6億4000万円中国うなぎ養殖地造成事業に対する融資10億5000万円 回収不能

ネパール建築は構造に無頓着?



7.イエローページで見るカトマンズの職業

ネパール・カトマンドウの都市ガイド コラム原稿より

ネパールの伝統的な建物はレンガによる組積造であるにもかかわらず開口部が多い.開けっぴろげなところが多いあたりが何かアジア的である.ヨーロッパなどで感じる組積造の空間とは大きく異なる.しかもアーチという建築技術を持たず開口部は木造の梁と柱でかなり強引ともいえる手法で確保している.西欧の縦長の小窓は私たち建築家の間ではポツ窓と呼ばれたりしている.要するに構造を傷めないようにとポツポツと遠慮がちに壁に窓がとられる事が多いのだ.ゲーテはそのような空間体験から「もっと光を」といっているし、開口部だらけの日本の空間体験から谷崎は「陰影礼賛」となるのだが、はたしてネパールではどうなのか?この強引さは縦方向の構造で顕著に見ることができ、カトマンズのダルバール広場にあるマジュ・デガと呼ばれる高い石段の上に建てられている塔状の寺院の断面図からよく分かる(断面スケッチ図版25、写真).上に行くほど小さくなっている3重の屋根がかけられた塔であるが、最上部の屋根を支えているレンガの組積造の壁面は一階まで届くことはなく2層目の屋根の部分でとぎれてしまい、井桁状に組まれた木造の梁で受け止められ空中に浮かんでいる.これほどではないにしても多くの塔でアクロバットともいえるような構造がとられている.塔だけでなく住宅や王宮の一階部分でも納屋、馬小屋、店舗などとして大きな開口を木造の梁と柱で確保している例が至る所で見られる(写真).一階が柱と梁ですけすけの状態で、その上に重厚なレンガの壁が3階まで載っているトップヘビーなエレベーションを見ると、ネパールの人は構造に対して無頓着なのか大胆なのか(写真パタン、ムル・チョク)?とは言うものの上部の荷重が大きいときは開口部の柱-梁は太くなるだけでなく二重に並行して配置されるし、カトマンズの王宮の中にある塔バサンタプル・バワンでは三重にしてその荷重を受け止めている(写真).柱はMethと呼ばれる横木を介して梁と緊結され、接合部はかなりしっかりとインターロックされている(図版26).日本の木造住宅は最近のものは地震に対しては筋違という斜めの材料で受けることになっているのだが、昔の民家などでは部材の大きさと接合部の強さで地震に対処していたという.それと同じようにこれだけしっかりと結合された柱-梁が何列も並ぶと、地震などの横方向の力に対してもかなり有効なのだろう. 写真・図版は準備中です

カトマンズのイエローページより

所変われば商売変わる!

建築家          4件

インテリアデコレーター 40件

ファッションデザイナー 18件

医者        1000件

病院          30件

弁護士        110件

弁護士事務所     170件

カーペット屋     120件

カジノ          4件

レンタカー        2件

コンピューター関係(スクール、メンテナンス、ショップ)              800件

カトマンズ最後の日出発までの時間つぶしにホテルの部屋においてあったイエローページKathmandu valley Business yellow pagesの数字です。これを見るとどんなビジネスがはやっているか意外な発見があると思ったからです。結果は、思った通りとても予想のつかないものでした。96年、97年と二年続けて見たがほとんどの業種が一年間で1割程度増えているのはこの国の急速な電話の普及を示しているのでしょうか。かなり偏ったものしかチェックしてきませんでしたが96年のイエローページでは右のようでした。ちなみに首都カトマンズの人口は約41万人。意外と多くて驚いたのが最後のコンピューター関係と医者。街の中でもコンピューターと連動したレジをおいてある店は外人観光客を対象にしたパン屋一件しかなかったし一体どこにそんな需要があるのだろう。見てきたつもりでまだまだ見ていない。でもホテルからはインターネットの接続もできるようになっていたから意外と多いのかも。それからやっぱりと思ったのが建築家の4件とレンタカーの2件。レンタカー屋はたとえ2件でも苦しいのではないだろうか。なぜって観光客であの喧噪の中に飛び込む勇気のある人、いつ止まるか分からないような車を借りる人が何人いるのだろうか?と言う私も実はバリやらモロッコでは車を借りて、あのルールのあるようなないようなとんでもない喧噪の中を走りきました。しかし牛、3人掛けのソファーを一人で担いでいる人、5人乗っている自転車、荷物満載のリヤカー、三輪タクシー、車が信号もなしに同時に四方八方からやってくる交差点が次から次へと現れるここカトマンズではちょっとその気になれません。さて建築家の4件、なんと言ったらよいのでしょうか。町中を見る限り建築家と言うよりは建設業者の仕事の方が多そうですし4件というのがはたして多いのか少ないのか。いなかでは住宅は自分で建ててしまうといいますし。でもやはり40万人に対しての4人ですからそば屋の数より建築事務所の方が多いと言われる東京の渋谷などよりは仕事がしやすいのではないでしょうか。



6.カトマンズの多層住宅

 ネパール、カトマンズというとエベレストを代表とする8000m急の山々の連なる寒い山岳都市を連想してしまいがちだが首都カトマンズは標高1300mほど、緯度は奄美大島と同じくらい南にあるので、東京より遥かに暖かい.経済的には特にこれと言った物がなくアジア最貧国の一つである.第一印象はきれいで安全なインド.質素な人々の生活の中で特徴的なのはヒンドゥー教と共に暮らしていること.ヒンドゥーは仏教と似ているが、有名なカースト制度という身分制度があること、生け贄を捧げることなどが仏教と大きく異なっている.この宗教が現在のネパールの生活様式、住宅を決定付けていると言って良いだろう. 20km四方ほどのカトマンズ盆地の文化はネワール族を中心に形作られた共通の建築言語を持つ.特徴は方杖で支えられた軒の深い屋根に守られたレンガ積みの赤っぽい壁と、見事な彫刻を施された木製の窓や出入り口がはめ込まれた開口部にある.王宮、寺院、修道院、住宅など、どの建物も規模や素材など共通しており、街の統一された秩序ある景観を見せるが、中には住宅なのか王宮なのか見分けのつかない建物も多い. 住宅の部屋の配置には宗教の色が色濃くでる.狭い家でも一階は誰々さん、二階は○○さんと水平に分割されることはなく縦割りに塔状に分割される. では住宅の一般的な平面を見てみよう.一階は湿気をさけるため、居室として使われることはなく、店舗や収納、郊外では農作業のスペースや家畜のスペースとして使われる.天井高は総じて低く1.8mに満たない家も多い.二階は寝室、寝室のベッドは3方壁にくっつけて配置される事が多く、上に座って使うこともある.日本のワンルームマンションのベッドと同じ使われ方だ.リビングに当たる部屋は三階になることが多いが家族の構成によっては、一部ベッドルームになっていたりすることもある.4階が食堂と台所.ヒンドゥーの世界では、神聖な場所は上に設けられる.この配置がなかなか宗教なしでは理解しがたいところだ.そこには西洋的な機能主義や価値体系は入り込む余地はない.台所に水道や排水もないところが多いため、水はタンクに入れて自分たちで上に運ぶ.排水はバケツのようなものにためたあと、外にポイッというところもまだまだ多い.炊事は床のレベルが中心.コンロも床におかれてしゃがんだまま調理する.食事も床に皿を並べて胡座をかいてとる.この上に屋根裏のあるときは収納や祈りの場所になる.我々はヒンドゥー教徒ではないのでカーストの高い低い以前の問題で、それらの住宅、特に神聖な場所である台所など上階に行くことはできないと考えた方がよい.上階に行くほど天に近くなり神聖な場所になるということが大原則になっている.我々から見ると、とても質素で中も決して広くはないが、どの家もきちんと清掃、整頓され、気持ちがよい.物質的な豊かさはないがそこには精神的な豊かさというか、宗教を軸とした秩序ある生活を行っている心地よさが充満していた.



5.コスト操作術

建築知識原稿より

ローコストを目指すと言うことは今日では人件費を削ること、と言いきってほぼ間違えないであろう.これは両刃の剣でもあり熟練した高度な技術を持つ職人を失っていくことも同時に意味する。同じローコスト・省力化と言っても大きく分けると二つの種類に分けられるように思う。一つはプレファブ会社、建て売り業者の行っているものであり、他が私たち建築家が取り組んでいるものだ。プレファブ会社、建て売り業者の行っているものは大量生産品を多量に使いかつ作業を省力化して人件費をうかせる方法だが、この大量生産品の多くに問題を含むと考える.これら大量生産品は、まず品質が均一で高い性能を併せ持たなくてはならない.大量生産したため単に安いだけのものはここでは論外.高い性能とはいつまでも変わらない艶、変質しない色、傷の付きにくい表面などで、住宅のみならず様々な<もの>物品、野菜に至るまで、これらが要求される.ぴかぴかつるつるで、いつまでもできたときと同じ新品の状態を保ち続けるものが<良いもの>と考えられているが、これは中身はさておき、見栄えが良く表面的にきれいなものをよしとする今の日本人の<もの>に対する平均的価値観に根ざす.わび、さびなどの昔からの概念はこれら大量生産品の均質、高性能品に完全に押しのけられてしまった.この方向での技術の進歩は今では塩ビ製の枠にプリント印刷されたドア枠にまでいたり、本物と見分けが付かないほどである.しかしこれら疑似素材は残念ながら視覚的な面からの模倣を抜け出ることはない.このプラスティックの固まりはゴミとなったときは燃えないゴミなのである.プラスティックで表面をコーティングされていない自然素材は傷が付きやすく、汚れやすいかもしれない.そのかわり良い香りを放ち、暖かな感触を与え、経年変化で色や艶は年輪を刻む.ローコストへの挑戦は職人への依存をますます減らしているというジレンマは依然として残るものの、そのような一般的な状況の中で、建築家は様々な方法で試みを続けているといえる。私の方法は月並みとは思うが下記のようなことだ。・手間、人手を減らす工法を考える。しかし、何回か同じような仕事を頼んでいる施工者だとこれらの方法は有効なのだが、なかなか見積もりまで反映されることが少なく、理解してもらうのに設計者の時間と手間がかかかりすぎているのが現状。木造住宅の場合など2×4を参考にするとかなり合理的な軸組にすることができる.在来の方法にこだわらずいろいろなことを試そうと考えている.・職種が多岐に渡らないように工事の種類を絞り込む。・作り付け家具はなるべく大工工事+建具工事で仕上げる。または既製品を使う。家具などの完全手工業製品はこれからもますます高くなっていく傾向にある.・安価な大量生産品ばかりに目を向けず在庫整理品とか間伐材などの、すき間商品を使用する。・流通経路を簡略化した製品の入手方法を考える。これは日本国内だけでなくインターネットなどで海外を見すえた方法が今では有効になってきている。以上のような方法でローコスト化を目指しており、BasicBox-01はこれらを前提とし計画された住宅である.前述したように中身は何であれ表面的に均質、不変のものを最上とする呪縛からます施主に抜け出してもらわない限り建築家-施主の幸福な関係は成り立つはずはなく、難しさがある。つき板のぴかぴかで均質なフローリングよりも節のある無垢の縁甲板のほうが良いと言うような価値観を共有することがローコスト住宅を円滑に進めていく一番重要な要素だと思う。





4.繋留された陸の船  長者ヶ崎の住宅見学後の鼎談  川口通正 杉浦伝宗 松澤穣

直裁的な解決が生む住まいの形質 特別企画「住宅設計とディテール再考」より

杉浦-元々諸角敬さんはヨットに乗っているものですから海のことをよく知っていて、湿気とか潮とか風の問題を結構風をうまく抜かすような構成をしています.例えば母屋の1階床は杭状の基礎で持ち上げられ地面に浮かんでいるようです.母屋とアトリエ棟に建物も細かく分け、強い風から逃れている.もう一つ特にこれで気に入っているのは、コストに対して彼は非常に敏感で、いつもコストを考えながら苦労してやっているというのがよくディテールにも表れていますね.一つ一つの材料そのものが非常にやすい材料で、構法も合成の梁を使ったり、外壁材についても安くて潮風に対して強い材料を使っているようですし、それと木造の陸屋根というのはある意味では画期的なものですね.非常に挑戦的なこともやっているというので好感が持てます.松澤-この建物は陸に繋留されたヨットといった感じかな.斜面を上がり2階からデッキにアプローチして家に入る.そのデッキに建って海を一望する.思わず両手を腰に、海の男の気分!PC杭で、一階の床高を上げて、地面との繋がりを断ち切って、いつぞやか大海に漕ぎ出していかんとする.テンポラリーな場所といった気分が漂っていました.杉浦-外観というかエレベーションも、例えば黄色いモンドリアン風の外壁のパターンを縦張りにしたり横張にしたり、漂流するヨットというような感じのイメージでやっているのかもしれませんが、そういうのもいいなという気がしますね.川口-これは最大のポイントは素材選びで、木に対する信頼なんですね.いまヨットの話が出てましたが、木造の船みたいな感じなんですよ.表面を削ると腐るので、もちろん防腐塗装をしてあるのですが、削らないでそのまま使うらしいんです.それからよく日が当たることによって木が腐らないということもたぶん諸角さんは知っていて、やはり経験の中で培ったものが利いてくるような気がします.杉浦-やっぱりこの住宅の外壁は全部空気層をとっていますね.松澤-でも学校で教わったのは鉋をかけると、導管にそった木理となるため浸透しにくいけれど、切り放しは導管をブツブツ切ってしまってそこから水分が染み込み、腐りやすいって習ったでしょう.川口-僕もそれで諸角さんに聞いたんですが、鉋をかけていないと染み込んでいくとのことで、たぶん防腐処理が厚くできると言うことでしょうね.これはアメリカの材料なんです.だからむき出しではだめでしょうね.あとは工業化製品をうまく使ったディテールがありました.諸角さんが設計されたストラクチャーの柱にガラスを嵌めるためにアルミのフラットバーを押さえに使ってガラスを固定したり、外部の手すりにスチールワイヤーロープを使ってテンションさせたり、アルミサッシュと木材をうまく納めてアルミサッシュをなるべく隠して、コーキングを思ったよりたくさん使用していないなど、工夫がちゃんとしてあるというのはやっぱり並じゃない.



3.縁側スペースを見直す

消えていく縁側

今、家を建てようとしている人たちには縁側というものに郷愁を覚える人たちが少なくないと思います.ここであえて郷愁などと書いたのは、残念なことにこのごろさっぱり縁側らしき空間が住宅の中から消えてしまったからです.今の小学生、中学生はマンションでずっと育ってきた子も多く、縁側は知識でしか知らない子も多いのではないでしょうか.これから家を建てようという年代の人々は縁側で遊んだ記憶、夏休みの夜の線香花火や冬の日を浴びながらぽかぽかと気持ちよく過ごした経験はきっと持っているでしょうが、いざ自分の家を建てようと思うとそのスペースはもったいなく感じ、他の部屋に回してしまうというのが現状でしょう.たとえ縁側をとったとしても猫の額のような小さな庭しかない現状では、太陽が燦々と降り注ぐあの記憶にある縁側にはほど遠く、むしろない方が良いように思えます.また縁側はマンションの場合、法規で床面積に含まれないバルコニーにその形を変えてしまい、数字の上での効率重視の点からなかなか縁側のようなはっきりとした用途が見えにくい場所は嫌われてしまっているようです.このようにしてマンション、建て売り住宅など都会やその近郊の住宅地に建てられる新しい建物からこのすばらしい空間が失われつつあるのが残念でなりません.実際小さい住宅の場合20坪、30坪の限られた広さの中から縁側のスペースをひねり出すのは設計を行っている人でもなかなか難しいもので、ついついそのスペースを部屋に割り振ってしまいがちなのが現状です.計算してみるとちょっとした縁側でも2ー3坪程度(小さな家だとなんと全体の面積の10%程度)は食ってしまうものですから難しい選択です.外部ー内部の緩衝地帯として機能していた縁側も、エアコンが普及している現代ではその用途を奪われた形になり、たとえ縁側が無くともどんな部屋でも何とか快適な部屋にしてしまうことができるようになりました.ただしそれには膨大なエネルギーの消費が伴うわけで、省エネが叫ばれるこれからの時代の流れには反するものです. 縁側とは一見無駄なように感じるこの空間も前述のように省エネルギーに役立つ装置として役立つことはもちろん、家全体に広がりと余裕を持たせ、また用途上も多目的な空間として有効に使えるのではないでしょうか.そもそも遊びのないぎりぎりの設計では息が詰まってしまいます.ここで縁側の空間的特徴を簡単に書いておきましょう.縁側という空間は私たち専門家の間では中間領域などと呼ばれています.外でもなく内でもなく庭と部屋の間に挟まれた中間領域は、冬の寒さや夏の強烈な日差しを部屋の中に入れない緩衝地帯で室内環境のコントロール装置と見ることもでき、省エネに役立ちます.一年を通して年がら年中快適な空間とは決していえませんが、冬の昼間は暖かく家で一番の場所で(それは快適な場所をいち早く組み付けだす猫の習性からも分かりますが)、夏には日の沈んだ夕方になれば夕涼みのできる外の涼風を得ることのできる魅力的な空間でもあるのです.機能的に見ると縁側には主要な用途がない代わりに様々な使い方が有ります.部屋と部屋をつなぐ廊下として使われることはもちろん伝統的な民家や農家では縁側は近所の人々にとっては立派な玄関、接客の場になりますし、子供の遊び場にもなります.梅雨時の物干し場、ベンチなどその用途は多種多様です. 新しい型の縁側そこで私は縁側を自分なりに解釈し直し積極的に自分の設計する住宅に、無駄の無いように取り入れようとしています.ただしそのまま移植するのではなく、現代の都市環境の中でも活かすことができないか、新しい型の縁側として考えています.ですから縁側と言ってもまったく違う形の空間で、サンルーム、温室といった部屋のような空間です.従来の縁側のように外でもなく中でもない空間と考えていますから空調もせず夏の昼間は暑く冬の夜は寒いスペースです.しかし冬の天気の良い昼間には十分な熱を得ることができ、開け放てば夏の夜は戸外室のように風の吹き抜ける快適な空間です.形状も細長くないため、季節の良いときにはお茶を飲むことも食事もできる様にしています.このような半戸外的な空間は住宅に広がりと楽しさを与えます.トイレや台所が必ず住宅にあるように、適正に配置された中間領域は良い住宅には絶対に必要なものとの考えから積極的にグリーンハウスを設けるようにしています.



2.建築士なのですか?建築家なのですか?

旭硝子ホームページ、ハローarchitectより

「家の施工もお宅の会社でやるのですか?」「良い大工さんは会社にいますか?」など良い方で最近は「おたくにタクミはいますか?」など・・TVの影響はすごいですね.色々な質問を受けますが、まじめな質問から思わず笑ってしまうようなものまで・・ここ数年住宅に対する一般の方々の関心が高まり、実際仕事をしていても普通のサラリーマンの方が気軽に相談に来られるようになりました.昔から敷居を高くしていたつもりはないのですが、設計をお願いして家を建てようという人が増えてきていることは嬉しい限りです.「衣」「食」に続いてようやく本命の「住」もブームになってきたかと思っています.一般の人々に浸透してきたのはよいのですが、本当の設計事務所の仕事、建築家の仕事を良く理解していない方が多いのも事実ですのでこの場を借りて分かりやすく説明しようと思います.設計・施工について実際、設計施工とか一括受注などという話はよく聞きますがこれにはからくりがあります.設計と施工は同じ会社が行ってはならないと、建設業法という法律で定められているからです.設計と施工は利害が反するまったく別のものです.ですから設計事務所と建設会社は同じビル同じフロアーで仕事をしていたとしても書類上は二つの会社になっているはずです.小さな工務店も大手建設会社もそれは同じです.昔から良心的で腕の立つ大工さんに直接仕事を頼むという習慣がありましたから現代でもその商習慣に基づいて看板と良心で設計と施工を行っているわけです.いい加減な設計で家など建てられてしまったら地震や火事、シロアリなど色々心配事を抱え込んでしまうことになります.また一方、家を建てるとなると大きなお金が動き、きちんと契約通り施工がなされているか、お金が不適正に流れていないか監理する必要が出てきます.そのための資格として一級建築士や二級建築士の資格があるわけで設計、監理に対処できるだけの十分な知識を必要とされます.逆にいうと決してデザインが上手いとか発想が豊かであるとかいう能力は関係のない資格です.では建築家ってなんですか?現在日本には厳密に建築家という定義はありません.名乗りたい人が名乗ればよいのです.欧米では建築家というとその資格試験は厳しく何日に渡ることも珍しくなく、口頭試問や面接も行われている国がほとんどです.日本には現在一級建築士が約16-7万人程いると思いますが、これも毎年一万人ほど増えています.子供も含め約700-800人に一人が一級建築士になる勘定です.満員の東京ドームには70人の一級建築士がいる勘定になります.土建大国と言われる所以です.欧米の建築家は日本の建築士と違い社会の文化的側面での役割が多く期待され、その国の文化の担い手として優遇されているため地位も高い割に人数も少なく、各国に建築家と言われる人は1000人ほどではないかと思います.ある建築の編集者の話では、日本で建築家と呼べる人は500人しかいないとか.そうすると一級建築士の400人に一人しか建築家と呼ぶに値する人がいないこととなります.新建築家協会や建築士会が欧米並みに日本でも建築家と呼べる人を選出しようと試みていますが、ではどのように選ぶか?など難問があり、日本では建築士の制度しかないのが現状です.一時期働いていたことのあるイタリアでは建築家の仕事は多伎にわたります.有名なバッグ屋さんも建築家出身であったり、家庭で使う様々な洋品のデザインも行います.一方で歴史的街並みの保存修復を行っていたり.また一人の建築家が住宅、空港、ビルはもとより自動車、タイプライター、電気炊飯器(日本のメーカーのもの)を同時にスタジオで進行させている様を見ると、さすがにレオナルド・ダ・ビンチの末裔だなと感心させられたりもします.はたして建築家制度ができたとき日本の建築家はどのような立場になるのでしょうか.



1.馬鹿か?煙か?建築家??

建築家って高いところが好き?

小生、バカか煙かと言われるほど高いところが好きである.横浜のマリンタワーが完成したのが3−4歳の頃で工事の経過をみたり、親や親戚の人に連れられてマリンタワー、東京タワーには何回か上った覚えがあるのだが、それが原因なのかどうかは定かではない.イタリアのシエナへ行けばまず街で一番高い鐘楼に上り辺りを見回す.ベネツィアではサンマルコ広場に霧がかかり、鐘楼の上部がフェイドアウトしていくように空の中に消えていく幻想的な風景に出会った.喜んで上に登ってみたのだが雲の中に首をつっこんだような状態で何も楽しくなかった.飛行機など何回乗っても窓側の席から下の景色を楽しんでいる.クエート近辺では砂漠に定規で描かれたような街と街をつなぐ道路が印象的であったし、シベリア上空では眼下に蛇のようにうねるツンドラの風景、河が見え感激した.そんな私を喜ばせてくれたのがインターネットのグーグル・アースである.こんな事ができるようになったんだ!というのが最初の感想.アクセスすると最初の画面で宇宙に浮かぶ地球が出てくるのだが、マウスで地球を回し、ホイールで拡大していくとあっという間に日本全体の鳥瞰が見られる.たぶん宇宙から見るとこんな感じなのだろう.さらにぐりぐり回すと切れ目なく拡大し、関東平野が画面いっぱいに広がり、東京二十三区(地図のように境界線がないのがまた良い!)、そして最後は目指す我が家の屋根まではっきり見られる映像となる.昔、チャールズ・イームズという建築家がpowers of tenという短編映画をつくり、ピクニックに来ている家族の鳥瞰から始まり宇宙の果てまでどんどんカメラを遠ざけていくというシーンがあったが、今は好きなところにズームアップできるのである.自然が豊かな住宅地であると思っていたのが意外と都市化されていたり、開発業者の手によって山が無惨に切り開かれていった状況が見えたり、手に取るように分かる.すべてのことにおいて言えるのであるが、近視眼的な目で物事を詳細に見るだけでなく、たまには鳥瞰的な目を持って物事に接しないといけないな、と思ったグーグル・アースであった.